空想にモウソウ mimic wood owls

一枚の写真からのインスピレーションで、好き勝手文章を書きます。自由過ぎてすみません。※全てフィクションです。

簡単なことと人生

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オレンジを均等にカットし、それに砂をまぶした上で、上から体重をかけて圧縮する。

 

基本、工場での業務はこれで終わり。私は早10年この仕事に従事するベテラン工員だが、未だにこのオレンジがどのような社会的活動に繋がっているのか知らない。工場の人間は無口な人が多いため、他の工員がこの作業の末、どんな商品が生まれるのかを知る者がいるのかも知らない。目的が分からない作業には苦痛が伴う。自分の社会的な価値を測ることができないからだ。それでも、この仕事を続けて来れたのは、賃金が高く、それでいて福利厚生もしっかりとしているからに他ならない。しかし、時々私は一生オレンジを押しつぶし続けるのだろうかと考えて、心が浮かんでいってしまう事がある。それでも、今日も私は働く、家族のため、生活のために。家族には私の仕事は、銀行員であると偽っている。オレンジの皮を潰す仕事とはどうしても言えなかったのだ。しかし、今思うとあの時なぜ本当の事が言えなかったのかと、悔やむ日が続いている。嫁は給料が良いため、それ以上のことは質問してこないから助かる。私はオレンジを潰して、嫁にお金を落としていけば、世の中に市民権を得ることが出来るのである。

 

それは至極簡単なこと、簡単なこと、かんたんなこと、、、

宝石の国のおじさん

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ビンを擦ると、小さなおじさんが出てきた。

 

おじさんは大あくびをかました後に、その場に横になった。そして、首でテレビを付けろと私に促してきた。アラビアの魔神を想像した私の想像力を返してくれと言いたかったが、そうしている間にも、おじさんは我がもの顔で私の家の居間に居座った。私がこのおじさんには何も期待は出来ないと思った矢先、おじさんが大きなオナラをした。音を聞く限りではかなり臭そうなオナラだったが、意外にも匂いはほとんどなかった。臭くないと本当に臭くないのか確かめたくなるものだ。少しずつおじさんのお尻の辺りに近づいていく。匂いはやはりなかったが、代わりにおじさんのお尻付近に煌めき輝く塊を見つけた。恐る恐る手に取ってみると、それは紛れもないサファイアであった。私はおじさんの目を盗みサファイアをこっそりポケットにしまった。おじさんはまだテレビを見ている。そうこうしていると、おじさんのお腹の中から、空腹であることを告げるけたたましい音が聴こえてきた。その音と共におじさんはこちらへ目配せをする。おそらく何か食べ物を買ってこいという目線なのであろう。なんたる生意気な態度だろうと憤慨しかけるが、サファイアを手にした私に今は、それ程の怒りはなかった。大人しくパシられてやろうという気になる。私はポテトチップスとビールを持ってきておじさんに与えた。おじさんは余程空腹だったのか、そのポテチを5分ほどで平らげた。そして、爪楊枝を使って器用にポテチをほじくり出しては口に運んでいた。やっぱり見ればみるほど唯の親父である。そんな唯の親父は腹がいっぱいになったからかイビキをかきながら寝だした。せめて布団くらい掛けてやろうという気になり、またおじさんに近づく、すると先程使っていた爪楊枝の先にルビーのカケラがくっ付いていた。私はそのルビーをまたポケットにこそっとしまった。おじさんは宝石の国から来たのだろうかと、もはや何の脈絡もないことを考えてしまう。

 

翌日、おじさんが眠っていた場所を見に行くと、おじさんの形をしたダイヤモンドが煌めいていた。

桃源郷

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少年は桃源郷を探しに旅に出た。

 

少年にとっての桃源郷とは、古びた倉庫の奥底に眠っていた一冊の本に由来するものである。その本には桃源郷への行き方が記されていたが、その行き方はずいぶんと大雑把なもので、信憑性に足るものではなかった。しかし、少年はまっすぐな目でその本の内容と向き合い、家族に知らせることなく、家を早々と出てしまった。桃源郷を見つけられるのは10歳になるまでという制約があったからだ。少年は今年の春、10歳を迎える。だから、どうしても早く行動に移す必要があったのだ。桃源郷へ行くには、まず光の門をくぐる必要がある。その門は選ばれた者の前にしか現れない。その門の前に立つと、光が身体の中へ流れ込んでくる。その光を内包するのは決して生易しいものではない。一説には大きな苦痛が伴い、死に瀕する者も時には出るというのだ。桃源郷へ行くには、それほどの覚悟をもって挑む必要がある。光を内包した人は天界人として桃源郷の市民権を得ることが出来る。その本に書いてあるのはそれくらいのもので、それ以上もそれ以下もなかった。しかし、少年は一本のランプを手に旅に出た。それは無謀といって差し支えなかった。もし、少年が選ばれし人間でなければ、光の門には出会う事ができないし、もし巡り会えても死ぬことも考えられるのだ。少年は期待を胸に抱き、木のうろを寝床にして明日を待った。

 

それから10年が経つ。

少年はというと立派な青年へと変貌を遂げていた。しかし、青年まだ現世にいた。青年は選ばれなかったのだ。しかし、幼い頃に村を単身飛び出し、死に物狂いで生きた青年は、同年代の青年とは比べ物にならないくらい賢く、狩りも上手くなった。青年は桃源郷へこそ行けなかったものの、新しい地で自分だけの桃源郷を作り上げたのだった。

赤首の鳥

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木のみを食べた後、私の首元は真っ赤に滲む。そう私は不器用で木のみを食べる時、必ず木のみの汁が自分にかかってしまうのである。そんな鈍臭い特性から仲間たちからは『汚れダルマ』と呼ばれてしまっている。しかも、この体たらくは雌から見てもマイナスに映るらしく、生まれてこの方雌とつがいになったことはない。首元が赤いが故にチェリーボーイをだっしきれずにいるのである。童貞のまま終わるのは、どうあっても避けたい事実だ。だから、何度も木のみを綺麗に食べる練習を積んだが、どうにも上手くならない。知り合いで木の枝をナイフのように使い、タネを上手く取り除くという器用な奴がいるから、そいつにも教えを請うたがなかなか上達には至らず、私はいつだって季節外れのサンタクロースのようであった。

しかし、私は知る由もない。この木のみを身体に塗ることで木のみの匂いを嫌う外敵を遠ざけていたことを。そして、将来この種の鳥は皆一様に首元が木のみの赤に染まることを。

未開の工場

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工場から立ち昇る煙が山間の村を覆っている。

 

この煙は村の人達の了承を得る事なく撒き散らされている。それどころか、村の人達は工場が出来ることすら、知らされていなかった。工場が建設される様子を見た村人はおらず、突如として現れた大きな工場の存在にまだ戸惑いを隠せない人が大半である。勿論、その工場が何を製造している工場なのかを知る者は皆無で、情報としてあるのは、工場から溢れ出す煙が焦げ臭いような匂いと甘ったるい匂いがないまぜになったような異質な煙であることくらいのものだ。村人たちは、あまりに特殊な匂いのため、人体に影響があるのではないかと危惧したが、今のところ大事に至った人間はいないようだ。ある時、村人の幾人かが苦情を言いに行こうとその工場へ向かったが、工場は稼働しているにも関わらず人っ子ひとり見当たらなかった。苦情を言うに言えなかった村人はトボトボと家路に着いた。そして、いつしか人々は工場を自然の内に受け入れた。誰にも正体の分からない工場がただそこにあるのみだ。

球体

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この球体には生命が住まう。

 

この球体にはどんなものだって入れられる。植物や家具、生き物、人間だって入れられる。球体に入る物体は、100分の1の大きさになって吸い込まれていく。しかし、吸い込まれた結果、人間であってもそこが現実世界だと思って疑わないだろう。球体は地球そのものであり、パラレルワールドとなっている。唯一違うのは、その世界の神は球体の持ち主が担うことだ。球体は持ち主の感情に大きく左右される。持ち主が悲しく思えば、そこら中で抗争や火事、地震等の自然災害が発生する。逆に、明るい時には、お金の巡りが良くなり、好景気となったり、作物などが豊作になったりする。まさに、持ち主は神と呼べる人物になるのである。だから、球体の中にいる人びとは、神に捧げ物をする儀式を数多く企画する。これも全て神のご機嫌とりのため、球体の中の生活を良くするためなのだ。

地球のヘタ

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私が地球のヘタだ。

 

といっても、到底信じてはもらえまい。

地球は私が神により植林されてから、始まった。私は地球内部にあるという溶岩を堰き止めている。詳しい実態は、あまり知らないが、根が温かさを感じるのは、その溶岩とやらのせいだと実感している。私の根は熱を通さない。見かけは唯の樹木だが、その実態はこの地球上には存在しない物質から成る異形の物だ。えらいもので、動物や人はわたしには近づいてこない。これを、神のご加護とでもいうのだろうか。わたしが居なくなれば、地球は溶岩に覆われ、全ての生物が死に瀕するのだから。そんな責任感をわたしが背負っていると考えると不思議な心持ちがする。なぜわたしが選ばれたのか全く心当たりがないのだ。時々、全てがどうでもよくなって死んでやろうかと思うこともある。でも、神がそれを許さない。わたしは神に飼われ、悠久の時を過ごすのだ。