空想にモウソウ mimic wood owls

一枚の写真からのインスピレーションで、好き勝手文章を書きます。自由過ぎてすみません。※全てフィクションです。

桃源郷

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少年は桃源郷を探しに旅に出た。

 

少年にとっての桃源郷とは、古びた倉庫の奥底に眠っていた一冊の本に由来するものである。その本には桃源郷への行き方が記されていたが、その行き方はずいぶんと大雑把なもので、信憑性に足るものではなかった。しかし、少年はまっすぐな目でその本の内容と向き合い、家族に知らせることなく、家を早々と出てしまった。桃源郷を見つけられるのは10歳になるまでという制約があったからだ。少年は今年の春、10歳を迎える。だから、どうしても早く行動に移す必要があったのだ。桃源郷へ行くには、まず光の門をくぐる必要がある。その門は選ばれた者の前にしか現れない。その門の前に立つと、光が身体の中へ流れ込んでくる。その光を内包するのは決して生易しいものではない。一説には大きな苦痛が伴い、死に瀕する者も時には出るというのだ。桃源郷へ行くには、それほどの覚悟をもって挑む必要がある。光を内包した人は天界人として桃源郷の市民権を得ることが出来る。その本に書いてあるのはそれくらいのもので、それ以上もそれ以下もなかった。しかし、少年は一本のランプを手に旅に出た。それは無謀といって差し支えなかった。もし、少年が選ばれし人間でなければ、光の門には出会う事ができないし、もし巡り会えても死ぬことも考えられるのだ。少年は期待を胸に抱き、木のうろを寝床にして明日を待った。

 

それから10年が経つ。

少年はというと立派な青年へと変貌を遂げていた。しかし、青年まだ現世にいた。青年は選ばれなかったのだ。しかし、幼い頃に村を単身飛び出し、死に物狂いで生きた青年は、同年代の青年とは比べ物にならないくらい賢く、狩りも上手くなった。青年は桃源郷へこそ行けなかったものの、新しい地で自分だけの桃源郷を作り上げたのだった。