空想にモウソウ mimic wood owls

一枚の写真からのインスピレーションで、好き勝手文章を書きます。自由過ぎてすみません。※全てフィクションです。

死に際の音楽

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私は今日死ぬ。

 

それは直感というよりは運命に近い感覚。身体中の細胞が死への準備を始めていて、全身が際立って感じられる。普段は聞こえない雑草が風に煽られて擦れる音や、コオロギが餌を求めて、砂利道を闊歩する音も聞こえる。遠くの音を拾おうと思えば、周波数をそちらへ合わせる事もできる。500メートル先の民家の中でお母さんが食器を洗う音、子供がアンパンマンのマーチに合わせて歌い踊る音も聞こえるのだ。死が近いと人間の可能性はこれ程までに広がるかと驚きを隠せない。

 

私は、死ぬときは自分の故郷を見に行こうと決めた。私が10年前夫と住んでいた家のある田舎。特に主だった建物はないけれど、夫との思い出がたくさん詰まった故郷だ。今なら天国にいる夫の声が聞こえては来ないかと、出来るだけ空高くに耳の周波数を合わせてみる。しかし、聞こえてきたのはトンビの鳴き声のみだった。でも、もう少しで夫に会えるのだから、まぁいいかと思った。

 

死ぬ間際、彼女は大量の音に飲み込まれ、衰弱して死んだ。今でも、その場所ではこの世のものではないような音が聞こえてくることがあるという。