傘のきもち
今日、私は置いていかれたのだ。
私はこの世に生まれついた瞬間から、人を雨から守るという使命を仰せつかった。そして、人間に尽くし尽くしてきた。それなのに、この仕打ちはなんだ。たしかに、ビニールボディーに身を包んだのは失敗だったと思う。人は安価な物を軽く見ている節があって、ビニール傘だから、無くしたっていいと思う所がある。人間はなぜ、この透け透けボディーに魅力を感じないのだろう。畳まれた傘が開く時、透け透けボディーが翻り立ち返る。その様はまるで、フィギュアスケートの選手さながらではないかと自分では思うのに、なぜだろう。私は人間に軽んじられたのだ。なんたる不覚。なんたる屈辱か。生まれ変わったら、折り畳み傘になってやる。そして、片時も人間の側を離れないでいてやってやる。はっ、捨てられたばかりなのに、まだ人間に施しを与えようとしている。私はなんて健気なんだ。