簡単なことと人生
オレンジを均等にカットし、それに砂をまぶした上で、上から体重をかけて圧縮する。
基本、工場での業務はこれで終わり。私は早10年この仕事に従事するベテラン工員だが、未だにこのオレンジがどのような社会的活動に繋がっているのか知らない。工場の人間は無口な人が多いため、他の工員がこの作業の末、どんな商品が生まれるのかを知る者がいるのかも知らない。目的が分からない作業には苦痛が伴う。自分の社会的な価値を測ることができないからだ。それでも、この仕事を続けて来れたのは、賃金が高く、それでいて福利厚生もしっかりとしているからに他ならない。しかし、時々私は一生オレンジを押しつぶし続けるのだろうかと考えて、心が浮かんでいってしまう事がある。それでも、今日も私は働く、家族のため、生活のために。家族には私の仕事は、銀行員であると偽っている。オレンジの皮を潰す仕事とはどうしても言えなかったのだ。しかし、今思うとあの時なぜ本当の事が言えなかったのかと、悔やむ日が続いている。嫁は給料が良いため、それ以上のことは質問してこないから助かる。私はオレンジを潰して、嫁にお金を落としていけば、世の中に市民権を得ることが出来るのである。
それは至極簡単なこと、簡単なこと、かんたんなこと、、、